どうしようもなくエクリチュール

つれなき毎日を過ごしつつ、世につれ、徒然に綴ります。

バイス

昨日は、TOHOシネマズ新宿で「バイス」を観て来ました。

 

longride.jp

 

子ブッシュ政権の副大統領、ディック・チェイニーの半生を、「サタデー・ナイト・ライブ」出身のアダム・マッケイ監督が描くってことで、もっとカリカチュアの効いた風刺ギャグ満載の作品かと思いきや、案外マジトーンでしたね。

 

もちろん、ドキュメンタリーとは一線を画した演出や仕掛けは張り巡らされているし、主演のクリスチャン・ベールはじめ、当時のブッシュ政権の面々の「見た目そっくり感」を活かした、リアリティのある細かい演技が、随所で哄笑を喚起してくるんですがね。

 

特にサム・ロックウェルによる息子ブッシュの、決して派手なことやらないのに、その中身のなさとバカさ加減がしっかり伝わる演技は絶妙。こういう抑制の効いた笑いは、結局情報リテラシー高くないと感得できないんだろうなあ。

 

そこから派生してつい考えてしまうのは、この手の映画って似たような素材はいくらでも転がっているにも関わらず、日本じゃ作られないんだろうなということ。

 

それでも90年代ぐらいまでは、テレビのバラエティとかでも政治ネタを扱うことが全然ありだった気がするけどねえ…

 

年々タブーというか思考停止というか、何なら公の場で話題にするのも憚られるみたいなムードが強まっていて、一方でSNSではヘイトなどの極端な言説が溢れている…

 

なんかトランプが好き放題やってるアメリカ以上のディストピア感があって、まあ国民性とかいろいろあるんだろうけど、最大の要因はマスコミメディアの脆弱化でしょうなあ。

 

「そもそもニーズがない」ってエクスキューズも出そうだけど、映画とまでは言わなくても、桜田義孝元大臣はじめ、現行政権周りなんてギャグネタの宝庫でしょ。

 

「ブラック・クランズマン」同様、最後にきっちり「他人事じゃねえかんな!」と釘刺してくるあたりにも、作り手の気概と矜持が込められていて、彼の国のエンターテインメント状況が眩しくて仕方なかったです。