どうしようもなくエクリチュール

つれなき毎日を過ごしつつ、世につれ、徒然に綴ります。

主戦場

局地的にヒットしているドキュメンタリー映画「主戦場」ですが、やっぱメジャーなメディアでは黙殺気味なんですかね。

 

www.shusenjo.jp

 

まあ従軍慰安婦がテーマってだけで、話題にすることすら腰引ける人も多いんでしょうなあ、残念ながら。

 

かく言う私もその問題に関して全然無知なもんで、知的欲求込みで観に行ったんですがね。

 

一方でいわゆる左翼文脈での教条的なノリは人並みに苦手なので、その点、日系アメリカ人留学生がネトウヨに絡まれたことをきっかけに、この問題についての識者からトンデモ論客まで突撃取材するというこの映画のスタイルは、すごく鑑賞しやすいバランスだったと思います。

 

まあ杉田水脈櫻井よしこケント・ギルバートをはじめとするそっち系の言説は、明らかに「フリ」に使われるケースが圧倒的に多くって、そこに絶妙なタイミングで反証がツッコミとして入り、笑いを喚起する…この構造が劇場映画としての最大のアピールポイントになってはいます。

 

ただこういった歴史修正主義者のトンデモっぷりと同等、もしくはそれ以上に印象に残るのは、結局当時あったことに関する明確な証拠が実際にはなく、数少ない根拠となるデータもほぼアメリカにしか残っていないということ。

 

最近のものとしては「ペンタゴン・ペーパーズ」など多くの映画でも描かれる通り、かの国にはやはり起きたことについての文書がきっちり残っているのに、我が国には確信犯的にそれが残されていない…これはもう現政権周りで頻発している現在進行形の問題じゃないですか。

 

そういった体質が戦時中から連綿と続いていることに暗澹たる気分にさせられ、大いなる示唆と警告を感じずにはいられませんでしたわ。

 

そしてこの問題が90年代まで顕在化しなかった要因の一つとして、韓国国内の当事者に対する偏見・非難があったことも不勉強ながら初めて知り、こちらも多くの示唆を含んでいるように思います。

 

さらにこの映画が決してテレビなどで大きく扱われないというメタ的な状況までも取り込んで、その内容のみならず存在自体がマスコミからSNSまでマクロに横断したメディア論になっている、そこもリアルタイムでこそ観る意味を突きつけてきます。

 

クライマックスと言っていい戦慄のボスキャラ登場のくだりには、サスペンスと困惑と失笑が複雑に交錯し、なんとも形容しがたい感情を惹起される…物事を重層的に捉えるのが苦にならない向きは必見の1作なんじゃないでしょうか。